文部科学省の調査によると、2022年度に認知されたいじめの件数は前年度から1割ほど増加して681,948件と、過去最多を記録しました。ニュースで学校や部活などのいじめ問題が取りざたされることも多く、長期に渡るものや悪質なもの、SNSなど見えない場所でおこなわれるケースもあとを絶ちません。それらが原因で不登校になってしまう子どもが続出しているのが現状です。
 
今回は、誰でも遭遇する可能性のある「いじめ」や、不登校になってしまったときの対応について解説していきます。

文科省によるいじめの定義

文部科学省では、毎年「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」を実施しています。小学校から高校でのいじめや暴力行為、不登校を含む長期欠席や中途退学などを継続的に調査しており、調査にあたり「いじめ」の定義をしています。

いじめの定義の変革

「いじめ」の定義は、時代の変化に対応して少しずつ変化しています。文部科学省が定めているいじめの定義は以下のとおりです。

“「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。
なお、起こった場所は学校の内外を問わない。”

 
引用元:文部科学省「いじめの定義の変遷」
 

従来は「自分より弱い者に対して一方的に」「継続的に」などの文言がありましたが、平成18年度からの定義では、それらの文言は削除されています。
 
また、平成25年度から施行された「いじめ防止対策推進法」では以下のように定義されています。

“いじめとは「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒がおこなう心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。」とする。”

 
引用元:e-gov「いじめ防止対策推進法」
 
「いじめ防止対策推進法」ではさらに、「いじめのなかには、犯罪行為として取り扱われるべきと認められ、直ちに警察に通報することが必要なものが含まれる」といった文言も盛り込まれており、児童・生徒の現状に即した内容に変化していることがわかります。

いじめ被害の人数の推移

『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』によると、2022年度のいじめの認知(発生)件数は、小学校で551,944件、中学校で111,404件、高等学校で15,568件という結果でした。児童・生徒1,000人あたりの発生件数は、小学校が89.1人、中学校が34.3人、高校が4.9人という結果で、いずれにおいても長期的な増加の傾向にあり、多くの子どもがいじめの被害に苦しんでいるのが現状です。
 
なお、2020年のみ減少に転じていますが、これはコロナ禍の影響により児童生徒の物理的な距離が広がったことや、臨時休校による授業日数減少の影響があるものとみられます。
いじめの認知(発生)件数

 
参考:e-Stat「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」

いじめの種類

いじめにはさまざまな形があります。ここでは平成25年に示された『いじめの防止等のための基本的な方針』にて「具体的ないじめの態様」として示されたものを例に、一般的に「いじめ」と定義される事案について説明します。

言葉によるもの

最初は冗談半分に言っていたことがエスカレートする事例として、「ウザい」「キモい」といった言葉を投げかける事例などがあります。触れられたくない個人のコンプレックスに言及する、脅し文句を言うなどのケースもあります。

暴力によるもの

ぶつかる、押す、叩く、殴る、蹴るといった身体的な苦痛を与える事例です。両者が対等な「ケンカ」とは違って、一方的におこなわれるものであり、加害者が集団であるケースも珍しくありません。

無視や仲間外れによるもの

話しかけても無視をする、仲間はずれにするといった事例です。個人間でおこなわれることもありますが、クラスや部活など集団に広がるケースもみられます。

SNSやインターネット上のもの

インターネット上に誹謗中傷の書き込みをおこなう、個人情報を勝手に掲載する、といった事例です。学校やクラス単位の非公開SNSで悪口を言われる、あるいはメンバーから外されるなど、閉鎖空間でおこなわれる場合もあり、第三者が気付きにくいことが問題となっています。

文科省の掲げるいじめ問題に対する学校の取り組み

文部科学省は、学校・教職員向けに『学校におけるいじめ問題に関する基本的認識と取組のポイント』を通達しています。この資料では、「いじめの防止等は、全ての学校・教職員が自らの問題として切実に受け止め、徹底して取り組むべき重要な課題である」と示されています。ここからは、この資料に記されている内容を簡単に紹介します。

いじめ問題に関する基本的認識

いじめ問題に取り組むにあたって、以下5点の共通認識を持ったうえで対処にあたる必要があると記されています。

  • ・「弱いものをいじめることは人間として絶対に許されない」との強い認識を持つこと
  • ・いじめられている子どもの立場に立った親身の指導をおこなうこと
  • ・いじめは家庭教育の在り方に大きな関わりを有していること
  • ・いじめの問題は、教師の児童生徒観や指導の在り方が問われる問題であること
  • ・家庭・学校・地域社会など全ての関係者がそれぞれの役割を果たし、一体となって真剣に取り組むことが必要であること

いじめは許されない、いじめる側が悪いと毅然とした態度で取り組む必要があるということや、子どもの悩みを親身になって受け止めることの重要性などについて説かれています。また、いじめの問題の解決のためには、家庭が極めて重要な役割を担うことや、教師には個性や差異を尊重する態度やその基礎となる価値観を育てる指導が求められていること、いじめの解決に向けて関係者のすべてがそれぞれの立場からその責務を果たす必要があるという旨が説明されています。

いじめに関する取組のポイント:学校における取組の充実

また同資料では、学校がいじめ問題に対する取り組みをおこなう際のポイントとして、以下の5つのポイントが示されています。

実効性ある指導体制の確立

いじめの問題に対しては、学校を挙げて対応する。全教職員を対象に、理解と指導力向上を図るための研修を実施する。

適切な教育指導

すべての児童生徒へ、いじめを許さないという意識を醸成し学級経営に留意する。いじめをおこなった児童生徒への指導措置を継続的におこなう。

いじめの早期発見・早期対応

日常から問題徴候の把握に努め、積極的な取り組みをおこなう。いじめが発覚した場合はすみやかに事実関係を究明する。

いじめを受けた児童生徒へのケアと弾力的な対応

スクールカウンセラー、養護教諭等との連携を図り、相談しやすい環境を整える。またいじめを継続させないためにグループ替え、学級替えも想定し柔軟な対応をおこなう。

家庭・地域社会との連携

いじめを把握したら、速やかに保護者、教育委員会に報告し、地域社会との適切な連携を図る。事実を隠蔽するような対応は許されない。

いじめに関する取組のポイント:教育委員会における取組の充実

いじめ問題は学校や家庭だけの問題ではありません。同資料では教育委員会に対しても、以下の5つの取り組みを拡充すべきだと訴えています。

学校の取組への支援と取組状況の点検

いじめ問題の解決に向けて、各学校の取り組みを積極的に支援・点検し、個別事件への支援を適切におこなう。

効果的な教員研修の実施

多くの教師が実践的な研修を受講できるよう配慮し、管理職、生徒指導主事、養護教諭、初任者等、受講者に応じた効果的なプログラムを提供する。

組織体制・相談体制の充実

教育委員会が一丸となって取り組むと同時に、私立学校担当課、教育センター、民間施設とも一層緊密な連携を図る。

深刻ないじめへの対応

深刻ないじめをおこなう児童生徒に対しては、他の児童生徒の教育を受ける権利を保障するという観点から、出席停止を含む毅然とした厳しい指導をおこなう。

家庭教育に対する支援

家庭教育を支援するため、さまざまな学習機会提供、相談体制の整備、親子の共同体験の機会の充実、父親の家庭教育への参加支援などを推進。

明聖高校のいじめ問題への取り組み

文部省の取り組みを受けて、各学校でもいじめ問題には真摯に向き合っています。通信制高校である明聖高校では、生徒の心身の健全な成長、人格の形成に利するよう「いじめ防止基本方針」として以下の5つの方針を掲げています。

第1.いじめ防止基本方針の策定等
第2.いじめの防止
第3.いじめの早期発見
第4.いじめへの対処
第5.学校の基本方針の評価

 
さらに、いじめを生まない、見逃さない学校づくりを目指し、いじめ対策委員会を設置していじめの早期発見、早期対応への取り組みを続けています。
 
明聖高等学校のいじめ防止基本方針について、詳しくは以下のページもご覧ください。
いじめ防止基本方針|明聖高等学校(千葉・中野の総合通信制高校)

いじめから立ち直り、再び学校に通えるようになった体験談

明聖高校には、いじめを受けた経験から立ち直り、高校生活を送っている生徒も大勢います。千葉本校の全日コースに通う、Aさんの事例をご紹介します。
 
Aさんは、中学校1年生の時にいじめが原因で不登校になってしまいました。中学の先生から明聖高校を勧められたものの、同じようにいじめにあうのではないかという不安もあったそうです。しかし、優しいクラスメイトや先生の力もあり、行事や研修も含めた学校生活を楽しめています。
 
明聖高校の先輩生徒インタビューについて、詳しくは以下のページもご覧ください。
先輩生徒インタビュー|千葉本校|明聖高等学校(千葉・中野の総合通信制高校)

子どもがいじめで不登校になったときの対応は?

子どもがいじめにあっていると知ったとき、親ができる対応は、何よりも子どもの声に耳を傾けることです。子どもにとって家庭が安心できる場所であるように努め、相談しやすい関係性を保ちましょう。学校に行くのが難しいときも、その気持ちを受け入れて「学校は休んでいい」と親子で共通認識をもつことが大切です。
 
子どもが自分の思いを話してくれるようになったら、より詳しく悩みや経緯を聞いていきましょう。本人の意思が最優先ですが、状況によってはしかるべきタイミングで、担任や学年主任、スクールカウンセラー、また地域や教育委員会が運営する相談センターへの相談も検討する必要があります。
 
いじめで不登校になったときの対応について、詳しくは以下のページもご覧ください。
高校でいじめにあって不登校になったらどうすればいい? | 通信高校生ブログ