全日制高校では、成績などが一定の基準を下回ってしまうと原級留置(留年)という処置がなされます。留年してしまった場合はもう一度同じ学年をやり直すか、高校を辞める以外に選択肢はないのでしょうか。今回は、留年になる基準と、高校を留年してしまった場合の「通信制高校へ転入学・編入学」という選択肢についてご説明します。

留年とはどういう意味?

留年とは、学校に在籍している児童や生徒が、進級できずに同じ学年を繰り返すことを指します。留年は通称であり、正式名称は「原級留置」といいます。病気や不登校などで出席日数が足りない、あるいは成績不良であるという理由から単位が足りない場合に判断されるものです。
 
留年になりそうな場合、多くのケースでは突然留年を言い渡されるのではなく、学校側から事前の通知があります。その後追試や補講を受けて単位を認定されると、留年を避けることが可能です。

留年をするメリット・デメリットは?

留年のメリット・デメリットを紹介します。

留年のメリット

留年のメリットとしてよく挙げられるのは、以下の5点です。

同じ内容を勉強し直せる

留年になった場合、同じ内容の勉強をあらためてすることになります。最初は理解が難しかった内容も改めて学び直すことで、より理解が深まるでしょう。

行事を多く体験できる

留年しても同じように行事を経験することになるため、人よりも多くの体験ができます。体育祭や文化祭はもちろん、学年によっては修学旅行や校外学習に複数回参加できます。

退学等の手続きが要らない

同じ学校に在籍し続けるため、退学して他の学校へ転入学をする場合に比べると、煩雑な諸手続きが不要です。

元同級生から情報を得られる

元同級生は学年が上になり、進路や就職に関して先に経験することになります。それらの情報を先だって共有してもらえるため、将来を考える際に役立つでしょう。

学歴が「高校卒業」となる可能性が残っている

仮に高校を中途退学し、「高等学校卒業程度認定試験」を受けて合格したとしても、学歴は高校卒業にはなりません。留年しても最終的に卒業できれば、「高卒」という学歴を得られます。

留年のデメリット

留年のデメリットとしては主に以下の4点が挙げられます。

留年後に必ず進級できるとは限らない

留年すると1年前と同じように勉強することになりますが、成績不良だった場合には必ずしも進級できるとは限りません。改善が見られなければまた留年を繰り返してしまうことになります。

学年が下の人と学習することになる

今まで後輩だった人たちと同級生となるため、周りの目が気になってしまう人もいるでしょう。また、先輩・後輩関係のような言葉遣いをするべきか、今まで同級生だった人たちには敬語で接するのかといったように悩み、関係がぎこちなくなる可能性もあります。

大学進学や就職で減点対象になる可能性がある

大学の推薦入学や就職の面接の際には、留年について聞かれることになるでしょう。その際にさしたる理由がなければ、減点対象となることもありえます。

学費の支援が少なくなる

留年した場合には、金銭的な学習支援がストップする可能性があります。支援金の例として、「JASSO災害支援金」を挙げます。これは、家が半壊や床上浸水などで被害を受けた場合に、学生が早く学習に復帰するために支給されるものです。留年している場合はこの支援金は申請できません。このように、留年したことで支援が受けられなくなってしまうおそれがあります。

高校留年者はどれくらいいる?

では、高等学校での留年者はどれくらいいるのでしょうか。文部科学省が公表している『令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について』によると、留年した高校生(※)は合計8,268人、高校に在籍している全生徒の0.3%となります。
 
全日制や定時制などの学校種別・学科ごとの内訳は次のようになります。

  • ・全日制普通科 3,606人
  • ・全日制専門学科 1,326人
  • ・全日制総合学科 388人
  • ・定時制 1,003人
  • ・通信制 1,945人

(※)令和4年3月末現在で進級又は卒業が認められなかった人
高校留年者数令和4年3月末時点
参考:文部科学省『令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について』
 
また、高校における不登校生徒50,985人のうち留年を選んだ人は3,006人となっています。割合にして5.9%の人が、元の環境で再起を図ることを選んでいるということです。

留年の基準は?出席日数と成績がポイント

高校の場合は留年となる基準が学校によって違いますが、基本的には出席日数と成績に一定の基準が設けられている場合が多いです。

必要な出席日数に届かないと留年になる可能性がある

出席日数については、多くの全日制高校の場合、出席日数の3分の1以上を欠席すると単位を修得できません。ただし、出席日数に厳しい学校では4分の1以上の欠席で単位を落としてしまうところもありますし、学校によってはさらに厳しいところもあります。
 
出席日数がどれくらい必要かについては、生徒手帳などを確認するか、事前に先生などに聞いておきましょう。

成績に悪影響を与える落第点に注意

テストで落第点を取ると成績にマイナスの影響を与えます。落第点とは、一般的に「赤点」と呼ばれるものです。テストで何点以下を取ると落第点になるかは学校によって異なります。教科によっても基準が異なる場合があるため、詳しいことは該当教科の先生に聞きましょう。
 
落第点を取ってしまったからといって、即留年につながることはほとんどありません。一度の落第点が進級にまで影響を与えるケースは稀です。ただし、落第点を取ったあと「同じ教科で何度も落第点を取る」「追試験でも基準点を下回る」「補習授業を受けない」といったことをしてしまうと留年につながってしまいます。
 
なお、基本的に落第点があるのは学内の定期テストだけです。学外でおこなわれる模擬試験は成績に影響せず、落第点はありません。

留年してしまったら?自分の事情に合わせて選択しよう

留年してしまったときの選択肢は、「学校に留まる」「学校を辞める」だけではありません。自分の抱える事情や状況を考え、よりよい選択肢を選びましょう。

在籍している学校に留まる

在籍している学校で卒業を目指す場合、もう一度同じ学年を履修することになります。「1学年下の生徒と授業を受ける」「元クラスメイトが1年早く卒業してしまう」といったことが気にならないのであれば、転校などの手続きが必要ないぶんスムーズに再スタートしやすいでしょう。
 
ただし、体調不良など普段から何かしら欠席しやすい状況にある場合、「同じ学校で必要な出席日数をクリアできるか」という点は考慮したほうがよいかもしれません。

通信制高校などに転入学・編入学する

在学している学校に残ったとしても卒業が難しそうな場合、通信制高校へ転入学・編入学するという選択肢もあります。
 
例えば、体調不良などで登校できない事情を抱えている場合、同じ学校に通い続けるよりも、事情に合った学校を探したほうがよいかもしれません。勉強のペースについていけないと感じている人も、学校を選び直すことで無理のない形で勉強できます。

資格を取得する

高校へは通わず、独学で「高等学校卒業程度認定試験(高卒認定)」の合格、取得を目指す道もあります。
 
高等学校卒業程度認定試験(旧大学入学資格検定)とは、高校を卒業した人と同等の以上の学力があると認定する試験です。
本試験の合格者は、高校を卒業した人と同等以上の学力があると認められるものの、最終学歴は高校卒業とはなりません。
 
しかし、採用試験や国家資格のなかには、高等学校卒業程度認定試験合格者を「高校卒業に相当する」とみなして、受験資格を与えているものがあります。高校を中途退学したとしても、この資格を持っていれば、就職先の幅が広がるでしょう。
試験は年2回おこなわれており、受験する年度末までに満16歳以上になる人が受験可能です。
 
ただし、最終学歴が「高卒認定を取得した中卒」と高校を卒業した「高卒資格」とではキャリアアップのチャンスが大きく異なる場合があります。
高卒認定を目指す大きな理由がない場合は、高校卒業を目指す方が良いでしょう。

就職活動をする

卒業が難しいと感じたら、就職を選ぶのも1つの手です。同じ学習をもう1年すれば、学費も同じぶんだけかかります。留年すると各種支援金が受けられない可能性があるため、学習を続けられないケースもあるでしょう。また自主学習をしていても理解が難しい場合には、進級・卒業を見込めないこともあります。社会人として働いていくうちに再び学習意欲が高まり、学費がたまれば、あらためて通信制高校に編入学することもできます。
 
ただし、就職活動の面接の際には、留年の理由を問われる可能性があります。面接官が納得できる理由を答えられなければ、留年が採用に関して不利にはたらくかもしれません。面接の際には、「留年しても仕方がなかった理由」を答えられるように準備しておきましょう。

全日制高校とはここが違う。通信制高校ならではのメリット

全日制の高校で留年してしまったという人におすすめしたいのが、通信制高校への転入学・編入学です。通信制高校なら、全日制高校で留年してしまった人でも進級・卒業できるかもしれません。ここからは、通信制高校ならではのメリットを紹介します。

卒業までの日数を短縮できる場合がある

ほとんどの全日制高校は学年制を導入しているため、留年が決まったら1年多く学校に通わなくてはいけません。できるだけ早く卒業したいと思っても、卒業するのに4年かかってしまいます。
 
しかし、通信制高校は単位制ですので、必要な単位を多く履修することで卒業までの日数を短縮できる場合があります。

生徒の年齢もさまざまで留年した際の遅れがそれほど気にならない

全日制高校で留年してしまうと、1学年下の生徒と授業を受けることになるため、留年してしまったことをどうしても意識してしまいやすいです。
 
しかし、通信制高校では働きながら在籍している人や、一度中途退学して高校に入り直した人など、同じ年齢の人ばかりではありません。幅広い年齢層の人が、それぞれの理由で通信制高校を選んでいるため、留年した際の遅れをあまり気にせず過ごすことができます。

学習面でのサポートが充実していることが多い

通信制高校には、さまざまな事情で転入学・編入学してくる人がいます。そのなかには、学習面での不安や悩みを抱えている人が少なくありません。そのため、学習面へのフォロー体制が整っている学校が多いです。
 
どういったサポートが受けられるかは学校のホームページを見たり、資料を請求したりすることで調べられますので、学校選びの段階でチェックしておきましょう。

自分のペースで学習し卒業を目指すことができる

通信制高校の場合、全日制高校や定時制高校と違い毎日登校する必要はありません。自分の生活に合わせて、自分のペースで卒業を目指すことができます。
特に、留年の原因が出席日数だった場合、通信制高校に転入学・編入学することで「登校しなければならない」というプレッシャーから解放されるのは大きなメリットです。体調不良などで思うように登校できなかった人も、心身の負担を軽減することができます。