子どもが一日の大半の時間を過ごす学校でいじめがあれば、それはとても苦しいものです。
 
我が子がいじめの被害者もしくは加害者になったとき、保護者の方も目を背けずに向き合わなくてはなりません。
 
本記事では、いじめの定義と子どもがいじめの加害者になる原因を解説します。いじめによる影響とともに、子どもを加害者にしないための予防策といじめから守る方法も紹介するので、参考にしてみてください。

1. いじめの定義

いじめ防止対策推進法によると、いじめとは児童生徒がほかの児童生徒に対して心理的または物理的な影響を与える行為で、被害者が心身の苦痛を感じているものを指します。

(定義)
第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。
引用:いじめ防止対策推進法|文部科学省

 
例えば、以下の行為がいじめに該当します。

  • ● 冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる
  • ● 仲間はずれ、集団による無視をされる
  • ● 軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする
  • ● ひどくぶつかられたり、叩かれたり、蹴られたりする
  • ● 金品をたかられる
  • ● 金品を隠されたり、盗まれたり、壊されたり、捨てられたりする
  • ● 嫌なことや恥ずかしいこと、危険なことをされたり、させられたりする
  • ● パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる

参考:いじめの状況及び文部科学省の取組について|文部科学省初等中等教育局
 
いじめは学校のなかだけではなく、学校以外の場所(通学路や塾など)での行為やインターネットを通じて行われるものまでさまざまです。
 
以下の記事では、いじめの定義や種類を詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。

関連記事:いじめとは?定義や種類、不登校になったときの対応を紹介|通信高校生ブログ|明聖高等学校

1.1. いじめの構造と問題点

いじめは、一般的に4層構造になっているといわれています。

いじめの4層構造 概要
加害者 いじめる児童生徒
被害者 いじめられる児童生徒
観衆 いじめをはやしたてたり、おもしろがったりして見ている児童生徒
傍観者 いじめを見て見ぬふりをする児童生徒

参考:いじめへの対応のヒント|文部科学省
 
観衆や傍観者は、直接いじめに関係なさそうですが、いじめの持続・拡大に大きな影響を与えているといわれています。そのため、加害者に指導するだけでは、いじめが止まないケースもあります。
 
とはいえ、保護者の方からすると、我が子が観衆や傍観者だった場合にどのように対応すればよいかわからないでしょう。毅然と加害者に立ち向かいなさいと促すと、我が子が次のいじめのターゲットにされるおそれもあるため、難しい問題です。

1.2. いじめの現状


引用:いじめの状況及び文部科学省の取組について|文部科学省初等中等教育局
 
令和2年度から4年度までの3年間を比較すると、年々いじめの認知件数が増えています。ただし、認知件数は学校側が認知したいじめの数であるため、まだ認知されていないいじめにも留意が必要です。
 
また、いじめの態様別状況について、上位3つのいじめを校種ごとにまとめると、以下のとおりです。

いじめの態様 小学校 中学校 高校 特別支援学校
1位 冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる
2位 軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする 軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる 軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする
3位 仲間はずれ、集団による無視をされる パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる 仲間はずれ、集団による無視をされる 嫌なことや恥ずかしいこと、危険なことをされたり、させられたりする

参考:いじめの状況及び文部科学省の取組について|文部科学省初等中等教育局 をもとに作成
 
認知されたいじめのうち、パソコンやスマートフォンなどを使ったいじめが増加傾向にあることが指摘されています。
 
いじめの解消状況は、全校種で75%以上ですが、これは学校側の判断であるため保護者と認識のズレが起こっている可能性もあります。
 
このように、いじめは年々認知件数が増えているうえ、インターネットによって複雑化しているのです。

2. いじめが起こる4つの原因

文部科学省は「学校におけるいじめ問題に関する基本的認識と取組のポイント」で、「いじめは許されない、いじめる側が悪い」という態度を示すことを学校に明示しています。したがって、被害者に原因はなく、加害者に原因があると考えて解決に取り組むことが大切です。
 
ここではいじめを「加害者の問題」ととらえたうえで、いじめが起こる原因を4つに分けて解説します。

2.1. 児童生徒の問題

加害者が、次のような問題を抱えていると、いじめに走ってしまうことがあります。

  • ● 正しいコミュニケーションのとり方を知らない
  • ● 心から信頼し合える人間関係を構築できない
  • ● がまんする力が足りない
  • ● 自分を大切に思えない
  • ● だれかに認めてもらいたい

加害者は、自分が抱える「認めてもらいたい」「注目を浴びたい」などの願望を叶えるため、あるいは不満やストレスを発散するために、他者に八つあたりしたり攻撃したりします。それが繰り返されることで、いじめに発展するのです。
 
いじめが学校などの集団で発生しやすいのは、異質なものを排除して集団が結びつきを強めようとする傾向があるためです。加害者のように心の問題を抱える児童生徒が複数人いると、加害者が増えたり、観衆や傍観者になったりしていじめを助長します。

2.1.1. いじめの加害者になるリスク

加害者をいじめに向かわせる大きな要因は、次の3つです。

  • ● 友人ストレッサー(友人に関する嫌な出来事やストレス)
  • ● 競争的価値観
  • ● 不機嫌・怒り・ストレス

こうした要因を抱えている児童生徒が、都合のよい相手と方法を見つけたとき、いじめの加害者になるリスクが高まります。
 
我が子をいじめの加害者にしないためには、上記の要因を取り除くとともに、家族や友人、先生と良好な関係を築いて、適切に発散させられるようにしなければなりません。

2.2. 学校の問題

学校側が以下の問題を抱えていると、いじめが起こる可能性が高まります。

  • ● 教師のいじめに対する認識・認知が甘い
  • ● 教師と児童生徒の交流が不足している
  • ● 学校やクラスの価値観が偏重化しており、差別的になっている
  • ● 厳しい管理があり、締め付けが強い校風である

例えば、問題行動のあった児童生徒を前に立たせて学級裁判を行ったり、朝の会・帰りの会で「友人の悪いところ」を言い合ったりするクラスは、抑圧的でいじめが起こりやすいです。
 
また、家庭学習ノートを全員が出したらポイントをもらえて、全校で競い合うといった仕組みは、ノートの提出を忘れがちな子が責められやすい構造であるため、いじめにつながるおそれがあります。
 
学校の校風や構造の問題は、子どもたちだけでは解決できないことが多いため、保護者が気付き学校に改善を求めることも必要です。

2.3. 家庭の問題

家庭が以下の問題を抱えていると、お子さんがいじめの加害者になるリスクがあります。

  • ● 核家族化による家族構成員の減少によりコミュニケーションスキルが不足している
  • ● 保護者の過保護・過干渉で子どもの不満耐性が育っていない
  • ● 保護者の価値観の多様化によって思いやりや規範意識が欠如している

このように、家庭教育が不十分だとお子さんの心が十分に育たず、加害行為をしてしまうおそれがあります。必要なときにはお子さんを叱り、社会規範や集団生活のマナーなどを踏まえた「しつけ」が大切です。

2.4. 社会の問題

いじめの増加には、社会的な背景も考えられます。
 
例えば、スマートフォンやオンラインゲームの普及によって、一日中友人と関われるようになりました。その結果、SNSを使った誹謗中傷や、オンラインゲーム上での仲間はずれなどにつながっています。
 
また、少子化にともなって核家族化し、子どもに関わる大人が昔よりも減りました。保護者の方だけで家計を支えながら家庭教育やしつけを行わなければならず、負担が増しています。
 
学習指導要領の変更により、以前よりも学習内容が難しくなったうえ、授業時数も増えています。子どもたちは、遊ぶ時間も十分にとれないためストレスを発散できず、友人にぶつけてしまうケースも考えられるでしょう。
 
社会の問題が、保護者と子どもたちを抑圧し、いじめを招いている可能性もあるのです。

3. いじめが子どもに与える影響(被害者側)

お子さんがいじめの被害者になったとき、心と身体に悪影響が及ぼされるおそれがあります。ここでは、いじめが子どもに与える影響を2つに分けて解説します。

3.1. 精神的な影響

2018年にロンドン大学のキングス・カレッジにある研究チームが発表した「幼少期のいじめ被害に関連する長期的な経済的影響」では、いじめを受けた被害者の影響が50歳になっても残り、被害から40年経っても高い精神的ストレスと関係していることが示されています。
 
また、抑うつ状態や不安障害に陥るリスクが高まることも指摘されています。自己実現やキャリア形成にも悪影響を及ぼすおそれがあるため、適切な対処が必要です。

3.2. 身体的な影響

いじめは、身体にも悪影響をおよぼします。いじめを受けているときは、ストレスから頭痛や腹痛、睡眠障害、食欲不振などの症状が引き起こされることもあるはずです。
 
また、滝沢龍氏が率いる研究チームが発表した「幼少期のいじめ被害は中年期の炎症と肥満を予測する:50年間の出生コホート研究」では、いじめ被害が中年期の循環器系疾患やガンなどの病気のリスクを高めることが指摘されています。
 
身体的な影響が出ると、お子さんが学校や社会生活に参加できなくなる要因になり得ます。

4. 我が子をいじめの加害者にしないためにできる予防策

文部科学省の国立教育政策研究所は、 2016~2018 年度の3年間にかけていじめの追跡調査を行いました。そのなかで、いじめの態様別に加害経験率が示されています。
 
そのうち「仲間はずれ、無視、陰口」では、約30〜40%の児童生徒が加害経験があることがわかります。

引用:いじめ追跡調査|文部科学省 国立教育政策研究所
 
この結果を見ると、我が子がいじめの加害者になる可能性も考えなくてはなりません。
 
我が子をいじめの加害者にしないためには、不満耐性である「がまんする力」を身につけるとともに、極度のストレスやその要因を取り除いたり、適切に発散させたりすることが大切です。
 
共働きでなかなかお子さんの話を聞いてあげられない、学校から問題行動の電話ばかりで子どもを怒ってしまうなど、お子さんにとって抑圧的な状況はなるべく避けたいものです。
 
ストレスを感じず過ごせる居場所をつくり、複数の大人と良好な関係を築けると、お子さんは「自分を見てもらえている」と感じ、落ち着いて過ごせるでしょう。

5. 我が子がいじめられている?と心配な保護者へ

ここでは、我が子がいじめられているかもしれないと心配されている保護者の方に向けて、3つの対処法を解説します。

5.1. 関係機関に相談する

お子さんの様子がおかしい、原因不明の身体症状が出ているなど、いじめが疑われる場合は、以下の関係機関に相談してみてください。

  • ● 学校
  • ● スクールカウンセラー
  • ● 教育委員会・教育局
  • ● 警察

学校に相談すると、いじめと疑われる行為などの情報を得られるかもしれません。もし、学校が信用できない場合は、教育委員会や教育局に連絡し、どのように対処すべきか相談してみましょう。
 
行政が協力的ではない場合は、思い切って警察を頼るのも一つの方法です。文部科学省は平成31年に、学校へ向けて「いじめ問題について警察と適切に連携するように」との通知を出しています。警察から学校につなげてもらうことで、重大事項として学校が受け止め直すケースも考えられます。

5.2. 思い切って学校を休ませる

いじめが疑われる場合は、子どもの安全を確保するために学校を休ませることも大切です。その間の学習は、学校に相談したり、ほかの方法で補ったりしましょう。
 
いじめの事実が明白であるケースでは、学校が加害者を休ませることもあります。関係機関と協力して、加害者を休ませることを要求するのも一つの手です。
 
いじめの被害に遭っているにもかかわらず、無理に登校させると心身へ多大な影響を与えるおそれがあるため、安全第一で判断しましょう。
 
「どうしてやり返さなかったの?」「我慢しなさい」といった言葉は、お子さんにプレッシャーを与えるため控えるのが賢明です。お子さんの気持ちを尊重し、丁寧に話を聞いてあげましょう。
 
また、いじめによって自己肯定感が下がることもあるため、安心できるご家庭でゆっくりと過ごし、心をケアしてあげることが大切です。

5.3. 別の選択肢を考える

いじめが疑われる場合で、関係機関に相談しても事態が改善されないケースでは、別の選択肢を考える必要があります。
 
例えば、義務教育の場合は、特認校へ転入学する方法があります。通常、日本の小中学校は通学区域内の学校に通うことが定められています。ただし、条件を満たす場合は、特認校に指定された別の学区の学校に通うことが可能です。
 
特認校は、自然豊かな環境にある小規模校(児童生徒数100人以下の学校)が多く、のびのびとした校風が特徴です。もし、お住まいの地域に特認校があれば、選択肢のひとつとして考えてみるとよいでしょう。
 
また、高校生の場合は、通信制高校という選択肢があります。通信制高校とは、オンライン授業や自宅学習などの通信教育を受けながら必要単位を修得し、高校卒業資格の取得を目指す学校です。全日制高校とは違って登校日数が少ないため、心身の負担を小さく抑えられます。私立であれば、年度途中でも転入学・編入学を受け入れている学校が多いため、一度相談してみるとよいでしょう。
 
明聖高校は、千葉県にある通信制高校です。さまざまな事情で毎日登校できない生徒が、自分のペースで学んでいます。
 
いじめの被害経験のある生徒の声からは、楽しく高校生活を送れていることがわかります。
 
千葉本校 全日コースの生徒の声

中1の時にいじめが原因で学校に行かなくなりました。中学校の先生から明聖高校を勧められて入学しました。また同じようにいじめにあうのではないか?と不安もありましたが、クラスメイトや先生方に優しく接してもらい、今は学校に行くことがとても楽しみです。行事や研修も多く、中学の時にできなかったことを思いきり楽しめています。
引用:先輩生徒インタビュー-千葉本校|明聖高等学校

現在通っている高校で、お子さんがいじめに悩んでいるのであれば、まずは学校を休ませて相談会に来てみてはいかがでしょうか?カウンセリング資格をもつ教員たちと話して、新たな選択肢を考えてみてください。
 
学校説明会・相談会の日程は、以下のページからご確認ください。

学校説明会・相談会|明聖高等学校

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