こどもの不登校に悩んでいる保護者の方のなかには、お子さんの特徴として「人が大勢いるところではすぐに疲れてしまう」「人が怒っている声が苦手」「ちょっとしたことで傷付く」といったことに思い当たる方もいるのではないでしょうか。お子さんの不登校の背景には、HSCが関係しているかもしれません。HSCとは、人よりも刺激に対して敏感な子どものことを指します。今回はHSCの概要や不登校との関係、HSCの子どもとの関わり方についてご説明します。

刺激に敏感なHSCの4つの特徴

HSC(Highly Sensitive Child)とは、アメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン氏が提唱した言葉で、「人一倍敏感な子ども」という意味です。より具体的に言うと、環境から影響を受けやすい(環境感受性が高い)子どものことを指す言葉で、周囲からの影響をポジティブにもネガティブにも受けやすいという特徴があります。最近よく見かけるようになったHSPもアーロン氏の提唱した言葉で、その子ども版と言い換えればピンとくる方もいるかもしれません。
 
1点注意が必要なのは、HSCやHSPは医学的な病名や診断名ではない、ということです。あくまで心理学で研究されている用語で、その人の個性を指すものだということは理解しておきましょう。
 
アーロン氏は、HSCには「DOES」と呼ばれる以下のような特徴があるといいます。アーロン氏の主張によれば、これはHSCのほとんどすべての人が生来持っている側面で、個人が育ってきた環境などに左右されるものではない、とのことです。
 
D(プロセスの処理が深い:Depth of processing)
O(刺激を強く受けやすい:easily Overstimulated)
E(感情的な反応が強い:Emotional responsiveness)
S(微妙な刺激に対する共感と敏感さを持っている:empathy and sensitive to Subtle stimuli)

D(プロセスの処理が深い)

少しの情報から多くのことを察したり、周囲の空気を敏感に察知したりする能力のことです。HSCの子は、先々のことまで考えを巡らせてしまうため、間違うことを恐れ慎重になりやすい傾向がある、といいます。

O(刺激を強く受けやすい)

受ける刺激がHSCでない人より強い傾向にある、という特徴です。アーロン氏によれば、暑さや寒さといった環境の変化に弱く、痛みも感じやすいといいます。音や臭い、肌触りなどにも敏感で、チクチクした肌触りの服などが苦手で、刺激が多いところではすぐに疲れてしまうとのことです。

E(感情的な反応が強い)

ポジティブな感情、ネガティブな感情の両方に強く反応する、という特徴が挙げられています。HSCの子どもは、怒られているのが自分でなかったとしても、ほかの子が怒られているのを見て自分も怒られているように感じてしまいやすい、とのことです。

S(微妙な刺激に対する共感と敏感さを持っている)

HSCの子は、他人の機嫌の機微を察しやすいといいます。また、他人の髪型や周囲のちょっとした環境の変化などにも気付きやすい傾向にある、とのことです。

ネガティブにとらえないで!HSCは生まれ持った性質

先述のとおり、HSCは医学的な概念ではなく、生まれつき持っている個性を表した心理学の用語です。病気や障害ではありませんし、診断名でもないため、医療機関でHSCと診断されることはありません。

アーロン氏によれば、HSCは生まれつきのものですので「親の育て方が原因でHSCになる」ということはないようです。保護者の方は「自分の育て方のせいでHSCになってしまったのかもしれない」と自分を責めないようにしましょう。また、HSCはあくまで個性にすぎませんので、「ネガティブなものだけではない」という点も重要です。

HSCにとって学校は負担の多い場所。時には不登校の原因になることも

HSCの子どもにとって、人が大勢集まる空間自体がストレスを感じやすい環境だと言われています。クラスメイトの大声なども負担になる可能性があります。学校がそういったストレスの多い環境であるということは覚えておかなくてはいけません。
 
また、共感力が高いため、たとえ本人ではなくクラスメイトが先生に怒られているだけでも苦痛を感じてしまうこともあるようです。被害妄想に陥りやすい子どももいるため、「自分もクラスメイトと同じミスをして先生に怒られるかもしれない」と不安になってしまうケースも考えられるでしょう。
 
「担任の先生が替わる」「クラスが替わる」など、新しい状況に対しても敏感に反応し、不安になる子もいます。運動会、文化祭、修学旅行など、日常とは違う刺激が多いイベントでは、本人が楽しいと思っていることでも人一倍疲弊してしまう可能性があります。
 
もちろん、敏感だからといって必ず不登校になるわけではありません。しかし、ストレスや不安、疲労を感じやすい分、HSCの子どもたちにとっては「登校すること自体の労力が大きい可能性がある」ということは覚えておきましょう。

HSCの子どもとどう接すればいいの?保護者の立場でできること

HSCの子どもは、そうでない子どもが簡単にできるようなことでもストレスを感じたり、深く考え込んだりする傾向にあると言われています。「ほかの子どもと同じようにできない」と悩むのではなく、HSCの子どものペースに寄り添ってあげることが大切です。

まずはHSCを知ることから始めよう

もし、「自分の子どもがHSCかもしれない」というときは、まずは保護者自身がHSCについて知ることが大切です。ただし、むやみに情報集めたり誰にでも相談したりするのではなく、HSCの専門家が発信している情報を選ぶなど、正確な情報を探しましょう。
 
HSCに理解のない人は、アドバイスのつもりでHSCの子どもや親を追い詰める言葉を投げかけてくることがあります。HSCは診断名ではありません。教員やカウンセラー、医療関係者であっても知識を持っていないことが少なくないため、相談する場合はその点を踏まえて相談しましょう。
 
HSCを扱っているクリニックなどにアクセスする手段があれば、そちらに相談するという方法もあります。

子どもだけでなく親自身も気を付けたい「自己肯定感」

HSCの子どもは自己肯定感を持ちにくい傾向があります。そのため、HSCの子どもと関わる際には、いかに自己肯定を育んでいくかという点に気を付けなくてはいけません。
しかし、HSCの子どもに寄り添うことで、周囲から「甘やかせすぎだ」「躾がなっていない」といった形で保護者が非難されることもあります。そのため、HSCの子どもを育てていると保護者の自己肯定感も下がってしまっていることもあるでしょう。
 
HSCの子どもとの関わり方で悩んでいる方は、子どもの自己肯定感を育むよう意識すると同時に、自分自身の自己肯定感を回復することも心がけてみましょう。保護者の自己肯定感が回復することで、HSCの子どもにもよい影響を与えるかもしれません。

敏感なぶん心身の疲れを溜めやすい。HSCの子どもは休息が大切

敏感な子どもは疲れやすいため、しっかりと休ませてあげることも大切です。不快なことだけでなく、楽しいことでも刺激が多いとHSCの子どもは疲れやすいと言われています。体の疲れはまだわかりやすいのですが、心の疲れは本人も自覚していないことがあるため注意が必要です。
 
子どもがHSCの場合、意識して休憩させてあげるようにしましょう。

HSCについて相談するなら専門家へ

現状、HSCについてインターネットで調べても情報が錯綜していて、正しい情報を得るのは困難といえるでしょう。自分の子どもがHSCかもしれないと心配されている方は、まず信頼できる専門の医療機関などに相談するようにしましょう。病気ではないため「HSCだ」と診断されることはありませんが、精神医学の診断名がつく可能性もあります。何よりも、家庭内で抱え込まないことが重要です。